預金を引き出す目的は、生活費に使うことだけではありません。証券口座へ移して投資信託を購入したり、不動産を購入するための自己資金にしたりと、預金の一部を「収入を生む資産」へ移すケースも考えられます。
特に50代は、定年後の生活が現実的に見え始める年代です。預金を取り崩しながら暮らすだけでなく、年金とは別に毎月の収入を得られる仕組みをつくりたいと考え、不動産投資に関心を持つ人もいます。
預金をすべて投資に回す必要はありません。生活に必要なお金を預金として残し、当面使う予定のない資金の一部で家賃収入をつくることも、50代から考えられる資産活用の方法です。
銀行預金を引き出す50代は本当に増えている?
日本銀行などの公的な統計では、50代に限定して「銀行預金を引き出した人数」が増えているかどうかは公表されていません。そのため、「50代が一斉に預金を引き出している」と断定することはできません。
日本銀行によると、2026年3月末時点における家計の金融資産は2,386兆円で、そのうち現金・預金は1,126兆円でした。金融資産全体の47.2%を現金・預金が占めています。※1
現在も、日本の家計にとって預金が重要な資産であることに変わりはありません。
一方で、現金・預金以外では、株式が398兆円、投資信託が165兆円に達しています。預金を持ちながら、株式や投資信託、不動産などにも資金を振り分ける考え方が広がっていることが分かります。
重要なのは、「周囲が引き出しているから自分も動かす」ことではありません。預金として残すお金と、将来の収入をつくるために活用するお金を分けることです。
50代になると預金の使い方を見直したくなる理由
預金を取り崩すだけの老後に不安を感じる
預金は、必要なときにすぐ使える大切な資産です。しかし、生活費として使えば、その分だけ残高は減っていきます。
たとえば、定年後に年金だけでは生活費が不足し、毎月預金から補う状態が続けば、まとまった預金があっても徐々に残高は少なくなります。
そこで検討したいのが、預金の一部を使って、毎月の収入を生む資産を持つ考え方です。
賃貸不動産を所有し、入居者がいれば家賃を受け取れます。家賃収入によって生活費の不足分を補えれば、預金を取り崩す速度を抑えられる可能性があります。
物価が上がると預金の購買力が変化する
預金の金額が減っていなくても、物価が上昇すれば、同じ金額で購入できる商品やサービスは少なくなります。
総務省統計局によると、2026年6月の全国消費者物価指数は、総合指数が前年同月比1.7%上昇しました。生鮮食品を除く総合指数も1.6%上昇しています。※2
預金には価格が大きく変動しにくい安心感がありますが、預金だけでは物価上昇に十分対応できない場合もあります。
不動産も、物価上昇の影響を受ける実物資産の一つです。周辺地域の賃料相場や需要によっては、家賃や不動産価格が変化することがあります。ただし、すべての物件で家賃や価格が上がるわけではないため、立地や賃貸需要を確認する必要があります。
定年後に給与以外の収入を持ちたい
現役中は毎月給与が入りますが、退職後は同じ水準の給与収入が続くとは限りません。
再雇用や短時間勤務によって働き続ける方法もありますが、健康状態や勤務先の制度によって収入が左右されます。
働いて得る給与とは別に、家賃収入があれば、老後の収入源を分散できます。給与、年金、家賃という複数の収入源を持つことで、一つの収入だけに依存しない家計をつくりやすくなります。
50代が不動産投資を検討しやすい理由
不動産投資は若いうちに始めなければならないものではありません。50代には、50代ならではの検討しやすさがあります。
給与収入があるうちに融資を相談できる
不動産投資では、自己資金に加えて金融機関からの融資を利用する方法があります。
融資審査では、年齢、年収、勤務先、勤続年数、保有資産、借入状況、購入する物件の収益性などが確認されます。融資を受けられることが保証されるわけではありませんが、給与収入がある現役中のほうが、退職後よりも資金計画を相談しやすい場合があります。
定年が近づいてから考えるのではなく、給与収入がある50代のうちに情報収集を始めることには意味があります。
ある程度の預金を残しながら始めやすい
50代では、長年の貯蓄によって、ある程度まとまった預金を持っている人もいます。
預金をすべて物件購入に使うのではなく、生活費や緊急資金を残したうえで、一部を頭金や購入時の諸費用に充てる方法があります。
自己資金を用意できれば、借入額を抑えたり、毎月の返済負担を軽くしたりできる可能性があります。預金をただ減らすのではなく、家賃を生む不動産へ形を変えるという考え方です。
老後までの収支を具体的に計画できる
50代になると、定年までの年数、退職金、年金の見込額、住宅ローンの残高などが見えやすくなります。
そのため、何歳までに不動産ローンをどこまで返済するのか、定年後にどの程度の家賃収入を残したいのかを、具体的に考えられます。
たとえば、現役中は家賃収入をローン返済や将来の修繕資金に回し、定年後は返済が進んだ物件から得られる家賃を生活費の補助にする計画も考えられます。
管理を専門会社に任せる方法がある
不動産投資は、自分で毎日物件を訪れて管理するとは限りません。
入居者募集、家賃の集金、設備トラブルへの対応などを管理会社に委託する方法があります。管理委託料は発生しますが、本業を続けながら物件を所有し、定年後も管理の負担を抑えやすくなります。
預金を「使うお金」から「収入を生む資産」へ変える
ここで、50代の会社員が不動産投資を検討するケースを考えてみましょう。以下は一般的に想定されるフィクションです。
53歳の会社員は、これまで老後に備えて預金を積み上げてきました。しかし、年金見込額を確認したところ、定年後の生活費を年金だけでまかなうことに不安を感じました。
預金をそのまま取り崩すだけでは、残高が減り続けます。そこで、生活費や住宅修繕費として必要な預金は残し、当面使う予定のない資金の一部を不動産購入の自己資金にしました。
購入後は管理会社へ管理を委託し、入居者から受け取る家賃をローン返済、管理費、修繕資金などに充てています。
家賃収入のすべてが自由に使えるわけではありませんが、入居が続けば、給与以外から毎月収入が入る仕組みを持てます。
ローン返済が進むほど借入残高は減り、完済後は返済に充てていた分だけ手元に残る金額が増える可能性があります。将来は物件を保有し続けて家賃を受け取るほか、売却して資金化する選択肢もあります。
家賃収入が老後にもたらすもの
不動産投資の魅力は、物件を所有すること自体ではなく、将来の収入をつくれる可能性があることです。
仮に、年金だけでは毎月の生活費が不足していても、家賃収入があれば不足分の一部を補えます。
年金を受け取りながら、家賃収入で食費や光熱費、管理費などをまかなえれば、預金を取り崩す金額を抑えやすくなります。
また、働いて得る給与は退職すれば減少しますが、家賃収入は入居者がいる限り、年齢にかかわらず受け取れる可能性があります。
体力や勤務時間に収入が直接左右されにくいことも、老後の収入源として不動産が注目される理由です。
不動産投資で確認したいのは利回りだけではない
不動産投資を成功に近づけるためには、広告に表示された表面利回りだけで物件を選ばないことが重要です。
特に次の項目を確認します。
- 駅からの距離や周辺人口などの賃貸需要
- 家賃から管理費や修繕費を引いた後の収支
- 空室が続いた場合でも返済できるか
- ローンの金利、返済期間、完済時の年齢
- 将来売却しやすい立地や物件か
不動産所得は、家賃などの総収入金額から必要経費を差し引いて計算します。※3
家賃収入の金額だけでなく、ローン返済、管理費、修繕積立金、固定資産税、保険料などを含めた収支を見る必要があります。
リスクは「始めない理由」ではなく事前に備える項目
不動産投資には、空室、家賃下落、設備故障、修繕、金利上昇、売却価格の下落などのリスクがあります。
ただし、リスクがあることだけで不動産投資を選択肢から外す必要はありません。重要なのは、リスクが発生しても対応できる資金計画をつくることです。
賃貸需要が見込める地域を選ぶ、複数の家賃相場を確認する、修繕資金を預金として確保する、無理な借入を避けるといった対策が考えられます。
購入前に複数の物件や不動産会社を比較し、空室や家賃下落を想定した収支も確認すると、判断しやすくなります。
50代は老後の収入を準備できる最後の現役期間でもある
「銀行預金を引き出す50代が増えている」と断定できる公的な統計はありません。しかし、定年後を見据えて預金の使い方を見直すことには十分な理由があります。
預金は、生活を守るために欠かせない資産です。一方、預金を取り崩すだけでは、老後の収入は生まれません。
生活費や緊急資金を預金として残し、当面使わない資金の一部を家賃収入を生む不動産へ移せば、年金以外の収入源を準備できる可能性があります。
50代は、給与収入を得ながら老後までの資金計画を立てられる時期です。定年後に預金を取り崩す生活だけを想定するのではなく、現役のうちに毎月の収入を生む仕組みをつくるという視点を持つことが、老後の選択肢を広げます。
※1 日本銀行「参考図表:2026年第1四半期の資金循環(速報)」
※2 総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年6月分」
※3 国税庁「不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」



