鉄分不足の診断方法と基準値
ここからは、医療機関での具体的な診断方法と、鉄分不足を改善するための治療法・食事のポイントをお伝えします。セルフチェックで気になる症状があった方は、ぜひ参考にしてください。
病院で行われる血液検査
鉄分不足が疑われる場合、医療機関では以下の項目を含む血液検査を行います。
| 検査項目 | 概要 | 診断における意味 |
|---|---|---|
| ヘモグロビン(Hb) | 赤血球中の酸素運搬たんぱく質 | 男性13g/dL以下、女性12g/dL以下で貧血 |
| フェリチン | 体内の貯蔵鉄を反映 | 12ng/mL未満で鉄欠乏を示唆 |
| 血清鉄 | 血液中を移動している鉄 | 低値は鉄不足を示す |
| TIBC(総鉄結合能) | 鉄を運ぶトランスフェリンの総量 | 鉄不足時に上昇(鉄を取り込もうとする) |
| MCV(平均赤血球容積) | 赤血球の大きさ | 小球性(80未満)は鉄欠乏を示唆 |
ヘモグロビンだけでなくフェリチンを測定することで、「隠れ貧血」の段階でも鉄不足を発見できます。内科、婦人科、血液内科などで検査を受けることが可能です。費用は保険適用の場合、3割負担で1,000〜3,000円程度です。
鉄欠乏性貧血の3つのステージ
鉄分不足は段階的に進行します。早い段階で気づくことが重要です。
- 第1段階(鉄欠乏):貯蔵鉄(フェリチン)のみが低下。ヘモグロビンは正常。いわゆる「隠れ貧血」の状態。自覚症状が出始める人もいます
- 第2段階(鉄欠乏性造血):貯蔵鉄が枯渇し、血清鉄も低下。赤血球の生産に支障が出始める。TIBCが上昇する
- 第3段階(鉄欠乏性貧血):ヘモグロビンが基準値以下に低下。明らかな貧血症状(倦怠感、動悸、めまいなど)が顕著に
鉄欠乏性貧血の治療法と治療期間
医療機関で鉄欠乏性貧血と診断された場合、どのような治療が行われるのでしょうか。主な治療法は「鉄剤の内服」と「鉄剤の注射」の2つです。
鉄剤の内服療法
治療の第一選択は鉄剤の内服です。代表的な薬剤にはフェロミア(クエン酸第一鉄ナトリウム)やフェルム(フマル酸第一鉄)などがあり、1日50〜200mgの鉄分を補充します。
ただし、鉄剤の内服には副作用があり、約20%の患者さんが胃のむかつき、吐き気、便秘、下痢などの消化器症状を経験するとされています。副作用がつらい場合は、服用のタイミングを変える(空腹時から食後に変更)、薬の種類を変える、用量を減らすなどの対応が可能ですので、主治医に相談してください。
鉄剤の注射療法
内服で副作用が強い場合や、消化管の疾患で吸収が困難な場合には、静脈注射(点滴)による鉄剤投与が行われます。注射療法は消化器症状が出ないというメリットがありますが、通院が必要になるデメリットもあります。
治療にはどのくらいかかる?
| 治療段階 | 期間の目安 | 状態 |
|---|---|---|
| ヘモグロビン値の回復 | 約1〜2ヶ月 | 自覚症状の改善を実感 |
| フェリチン(貯蔵鉄)の回復 | さらに3〜6ヶ月 | 体内の鉄の備蓄を補充 |
| 合計治療期間 | 約3〜6ヶ月以上 | 再発防止のため完了まで継続 |
ヘモグロビン値は比較的早く回復しますが、貯蔵鉄(フェリチン)の補充にはさらに数ヶ月かかります。「症状が良くなったから」と自己判断で治療を中断してしまうと、すぐに鉄不足が再発する可能性が高いため、医師の指示があるまで治療を継続することが非常に大切です。
食事から改善!鉄分不足を解消する食事のポイント
治療と並行して、あるいは予防として、日々の食事で鉄分をしっかり摂ることが重要です。食事からの鉄分補給にはいくつかのコツがあります。
ヘム鉄と非ヘム鉄の違いを知る
| 区分 | ヘム鉄 | 非ヘム鉄 |
|---|---|---|
| 含まれる食品 | 赤身肉、レバー、かつお、まぐろ、あさり | ほうれん草、小松菜、大豆製品、ひじき |
| 吸収率 | 15〜25%(高い) | 2〜5%(低い) |
| 特徴 | そのまま吸収されやすい | ビタミンCと一緒に摂ると吸収率アップ |
| 胃腸への負担 | 比較的少ない | やや多い |
鉄分の吸収を高める食べ合わせ
非ヘム鉄の吸収率を高めるには、ビタミンCとの組み合わせが効果的です。例えば、ほうれん草のおひたしにレモンをかける、小松菜の炒め物にパプリカを加えるなどの工夫で吸収率が2〜3倍に向上します。
逆に、食事中のお茶やコーヒーに含まれるタンニン、乳製品に含まれるカルシウムは鉄分の吸収を妨げることがあります。鉄分の多い食事をする際は、お茶やコーヒーは食後30分以上あけてから飲むことをおすすめします。
また、鋳鉄製(てつ)のフライパンや鉄瓶を使って調理すると、微量ながら鉄分が食品に溶け出し、手軽に鉄分を補給できます。昔ながらの鉄鍋を使った煮物料理は、実は理にかなった鉄分補給法だったのです。
1日に必要な鉄分を食事で摂るには
月経のある成人女性の鉄分推奨量は1日10.5mgです。これを食事だけで摂るためには、例えば以下のような食品の組み合わせが参考になります。
- 朝食:納豆1パック(鉄分約1.5mg)+小松菜のみそ汁(鉄分約1.0mg)
- 昼食:あさりのパスタ(鉄分約3.0mg)
- 夕食:牛赤身肉ステーキ100g(鉄分約2.5mg)+ほうれん草のサラダ(鉄分約1.5mg)
- 間食:プルーン3粒(鉄分約0.5mg)
これで合計約10.0mg。普段の食事を少し工夫するだけで、推奨量に近づけることができます。ただし、すでに鉄欠乏性貧血と診断されている場合は、食事だけでの改善は難しく、医師の処方による鉄剤の服用が必要です。
こんな時は迷わず受診を!医療機関に行くべきタイミング
以下に当てはまる場合は、自己判断で様子を見ずに、早めに医療機関を受診してください。
- セルフチェックで6個以上該当した
- 倦怠感、めまい、動悸などの症状が2週間以上続いている
- 月経量が異常に多い(ナプキンが1時間もたない、レバー状の塊が出るなど)
- 急激な体重減少がある
- 黒色便(タール便)が出る ― 消化管出血の可能性
- 氷を大量に食べてしまう(氷食症)
- 息切れや動悸がひどく、日常生活に支障が出ている
- 妊娠中で体調に不安がある
受診先としては、まず内科(一般内科)が窓口になります。月経に関する問題が大きい場合は婦人科、より専門的な精密検査が必要な場合は血液内科への受診を検討してください。
まとめ:鉄分不足は早めの対処がカギ
鉄分不足は、日本人女性の2人に1人が該当するほど身近な栄養問題です。身体的な症状(倦怠感、めまい、動悸)だけでなく、メンタル面(うつ、不安、集中力低下)や美容面(抜け毛、肌のくすみ、爪の変形)にまで幅広い影響を及ぼします。
特に注意していただきたいのが「隠れ貧血」の存在です。健康診断のヘモグロビン値が正常でも、貯蔵鉄(フェリチン)が枯渇していれば、さまざまな不調が現れます。不調を感じたら、フェリチン値を含む血液検査を受けて、鉄分の状態を正確に把握することが大切です。
鉄分不足の改善は、原因に合った対策を取れば着実に進みます。食事からの鉄分摂取を意識しながら、必要に応じて医療機関の力を借りましょう。治療にはヘモグロビン値の回復に1〜2ヶ月、貯蔵鉄の回復にさらに3〜6ヶ月かかりますが、根気よく続ければ必ず改善できます。「もしかして鉄分不足かも?」と思ったその日が、行動を始めるベストなタイミングです。
