- 鉄分の基本的な役割と、ヘム鉄・非ヘム鉄の違い
- 鉄分がもたらす5つの健康効果と、不足・過剰摂取のリスク
- 食事摂取基準2025年版に基づく1日の推奨摂取量と、吸収率を高める食べ合わせのコツ
鉄分とは?体に欠かせない必須ミネラル
鉄分とは、人体にとって必要不可欠な必須ミネラルの一つです。体内に存在する鉄分の総量はわずか3〜5g。体重60kgの成人男性でおよそ4g、成人女性では約3gほどしか存在しない、ごく微量の栄養素です。
しかし、その量が少ないからといって重要度が低いわけではありません。鉄分は体内で合成することができないため、毎日の食事から継続的に補給する必要があります。食事から十分な鉄分を摂取できなければ、体内の鉄の蓄えが徐々に減少し、さまざまな不調を引き起こす原因になります。
鉄分が今これほど注目されている理由は、従来の「貧血予防」という文脈だけにとどまりません。近年の研究により、鉄分はコラーゲン合成による美肌効果や、セロトニン合成を介したメンタルヘルスへの影響など、多面的な役割を持つことが明らかになっています。単なるミネラルの一つではなく、美容・健康・心の安定すべてに関わる「縁の下の力持ち」なのです。
体の中で鉄分はどう働いている?知っておきたい3つの役割
私たちの体の中で、鉄分は大きく分けて3つの重要な役割を担っています。それぞれの働きを具体的に見ていきましょう。
役割1:全身に酸素を届ける(ヘモグロビンの構成要素)
鉄分の最もよく知られた働きが、酸素の運搬です。血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンは、鉄分を核として構成されるたんぱく質です。肺で取り込んだ酸素をヘモグロビンが結合し、血流に乗って全身の臓器や組織に届けています。
鉄分が不足するとヘモグロビンが十分に作られなくなり、体の各部位に酸素が行き渡らなくなります。その結果、疲れやすさ、息切れ、動悸といった症状が現れるのです。
また、筋肉中にはヘモグロビンと似た構造のミオグロビンというたんぱく質があり、これも鉄分を含んでいます。ミオグロビンは筋肉内に酸素を貯蔵し、運動時など酸素需要が高まったときに供給する役割を果たしています。
役割2:エネルギーを生み出す(ミトコンドリアでの代謝)
私たちが食事から摂取した栄養素をエネルギーに変換する過程でも、鉄分は欠かせない存在です。細胞内のミトコンドリア(エネルギー工場と呼ばれる小器官)で行われるエネルギー産生反応には、鉄を含む酵素が深く関与しています。
鉄分が不足すると、エネルギーの産生効率が低下し、「しっかり食べているのに疲れが取れない」「体が重い」といった慢性的なだるさにつながることがあります。
役割3:免疫力を支える
鉄分は免疫機能のサポートにも重要な役割を果たしています。体内に侵入した細菌やウイルスと戦う免疫細胞の増殖や活性化には、鉄分が必要です。鉄分が不足すると免疫力が低下し、風邪をひきやすくなったり、感染症にかかりやすくなったりする可能性があります。
| 鉄分の役割 | 関連する物質 | 主な働き |
|---|---|---|
| 酸素の運搬 | ヘモグロビン・ミオグロビン | 全身の組織に酸素を届け、筋肉に酸素を貯蔵する |
| エネルギー産生 | ミトコンドリア内の鉄含有酵素 | 栄養素をエネルギー(ATP)に変換する反応を助ける |
| 免疫機能 | 免疫細胞(リンパ球等) | 細菌やウイルスに対する防御力を維持する |
機能鉄と貯蔵鉄 ― 体内の鉄分の2つの姿
体内に存在する3〜5gの鉄分は、その役割によって「機能鉄」と「貯蔵鉄」の2つに大別されます。この違いを知ることで、鉄分不足がどのように進行するのかをより深く理解できます。
機能鉄(体内の鉄分の約70%)
実際に体の中で「働いている鉄」のことです。赤血球中のヘモグロビン(約65%)や、筋肉中のミオグロビン(約3〜5%)に含まれ、酸素の運搬や筋肉への酸素貯蔵という重要な仕事を担っています。
貯蔵鉄(体内の鉄分の約30%)
肝臓、脾臓、骨髄などに蓄えられている「備蓄用の鉄」です。フェリチンやヘモシデリンというたんぱく質と結合した形で保管されています。機能鉄が不足したときに貯蔵鉄が取り崩されて補填されるため、いわば「鉄の貯金」のような存在です。
鉄分不足は一気に症状が出るのではなく、まず貯蔵鉄が減少し、それでも足りなくなると機能鉄が減少してヘモグロビン値が下がり、はじめて貧血と診断されます。つまり、貧血と診断される段階では、すでに「鉄の貯金」が底をついている状態なのです。健康診断でヘモグロビン値が正常でも、フェリチン値(貯蔵鉄の指標)が低い「隠れ鉄不足(潜在性鉄欠乏)」の方は非常に多く、日本人女性の約半数がこの状態にあると推定されています。
| 区分 | 割合 | 主な存在場所 | 機能 |
|---|---|---|---|
| 機能鉄 | 約70% | 赤血球(ヘモグロビン)、筋肉(ミオグロビン) | 酸素の運搬・貯蔵、酵素反応への関与 |
| 貯蔵鉄 | 約30% | 肝臓、脾臓、骨髄(フェリチン、ヘモシデリン) | 機能鉄の不足時に補填する備蓄 |
ヘム鉄と非ヘム鉄の違いを知ろう
食品に含まれる鉄分は、大きく「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類に分けられます。この2つは体内への吸収率が大きく異なるため、効率的に鉄分を摂取するためにはこの違いを理解しておくことが大切です。
ヘム鉄は主に肉や魚などの動物性食品に含まれています。化学的にはポルフィリンという有機化合物と結合した形で存在しており、この構造のおかげで胃腸の中で安定し、そのまま腸の粘膜から吸収されやすい性質を持っています。吸収率は10〜20%と比較的高いのが特徴です。
一方、非ヘム鉄は野菜、海藻、大豆製品などの植物性食品や、卵、乳製品に含まれています。非ヘム鉄は消化管内で食物繊維やフィチン酸などの影響を受けやすく、吸収率は2〜5%にとどまります。日本人が食事から摂取する鉄分の大部分は非ヘム鉄であり、これが日本人に鉄分不足が多い一因とも言われています。
ただし、非ヘム鉄は吸収率が低いからといって避ける必要はありません。ビタミンCやたんぱく質と一緒に摂ることで吸収率を高められることが分かっています。工夫次第で効率よく鉄分を補給できるのです。
| 比較項目 | ヘム鉄 | 非ヘム鉄 |
|---|---|---|
| 吸収率 | 10〜20% | 2〜5% |
| 主な食品 | レバー、赤身肉、カツオ、マグロ | ほうれん草、小松菜、大豆、ひじき |
| 由来 | 動物性食品 | 植物性食品・卵・乳製品 |
| 吸収の特徴 | 胃腸内で安定し、そのまま吸収されやすい | 食物繊維やフィチン酸の影響を受けやすい |
| 吸収を助ける工夫 | 特別な工夫なしでも比較的吸収される | ビタミンC・たんぱく質と一緒に摂ると効果的 |
